1月7日の週報コラム「ひだり手」
★年末年始、家族が出払ったのをいいことに、「おひとりさま」の正月最良のすごし方を思案しました。結果、大晦日池袋の書店に行き、普段読みたいと思いつつ読めずにいた本を3冊購入。①カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』②中島岳志『親鸞と日本思想』③ハンナ・アーレント『人間の条件』。
★元日朝から3冊を脇に居間のソファに座り順繰りに読んでいきます。1冊を1時間程キリのいいところまで読んだら次の本。こうすると疲れず飽きずに読み続けられます。それぞれジャンルが違うのがいいようです。元日は一日読書三昧。2日午前中は第2週に控えた諸々の委員会・役員会の準備。午後は人に誘われ外出。3日も昼間は仕事に費やしたので本当の読書三昧は元日だけでしたが、楽しい正月でした。
★読んでいて一番楽しいのは①。ファンタジー仕立ての小説の中、人間の「記憶」をめぐり、各々違った、あいまいな「記憶」を携えた異なる人間同士が、加害/被害の歴史の上に立って、共に生きていくことの困難と意味を考えさせられます。②は戦前、『歎異抄』に著された親鸞の信仰がブームとなり、それが著名な作家や宗教家によって、「日本民族」を称揚する国粋主義に結びつけられ、やがて政府の主導するファシズムに接続されていく様を描き出します。キリスト教において戦前・戦中ファシズムに接続した「日本的基督教」の形成過程と驚くほどよく重なります。③は読むのに至極難儀する本ですが、②との関連で言えば、人間がなぜ、自由を奪い生命や生活を破壊する「右へならえ」のファシズム(全体主義)になだれ込んでしまうのか、それを人間存在の根本から考察した本です。「自分はそんな『右へならえ』になだれ込みはしない」と思っている「普通の人」こそが、社会の構造的変化の中で知らず知らずのうちに飲み込まれてしまう恐ろしさを感じさせられます。世界全体がそのような趨勢(ポピュリズム)に向かっているいま、読むのは大変ですが、本当はしっかり捉えられなければならない本だと思います。